複雑系のパターンを炙り出す

複雑系のパターンをどう炙り出す?

歴史的に、チャート分析は人間の視覚に訴えるパターンを体系化し、規則性を見出そうとしてきました。しかし、視覚的に捉えられるパターンはすでに市場参加者に織り込まれてしまいます。人間の肉眼で見つけ出すことができるパターンならば、長い歴史のあるチャート分析がありますが、実際のところ、マーケットで役に立つような分かりやすいものは誰もが考え付くことであり、それよりもさらに複雑系ともいえる相場のパターンを炙(あぶり)だすためには、様々な解析手段を試す必要があります。数分後の株価の値動きを機械的に予測したとして、その予測を出した瞬間に鮮度はすぐに落ちてしまい、秒を刻めば刻むほど予測はランダムの波に打ち消されてしまいます。しかしながら、そのようなランダムな数値の流れの下に、予測を可能にできる規則的なパターンが潜んでいることがあります。超短期的な市場の挙動はカオス的に見えながら、完全なランダムではありません。その微細な変動のなかには、確率的・構造的な自己相関が埋め込まれております。市場の本質をより深く理解するには、私たちが見ようとするものではなく、市場が示しているものに気づくことが必要です。

海岸に打ち寄せる波の高さを予測することは不可能なことです。しかしながら、沖の近くをフェリーが一定の速度である角度で近づいてきた場合、何分後に砂浜に波が到達するかは、数学の計算でも解けそうです。では株式マーケットにおいて、通り過ぎるフェリーの存在はなんであるか、例えばタンカーなのか、ボートなのか、それともイルカの群れなのか、それぞれがどのような波の形なるのかとなるど、それぞれの波形の特徴やインパクトを分析すると何とか解けそうな気がします。しかしながら、到達タイミングで強力なうねりや障害物が来た場合、計算された波は打ち消されてしまいます。その瞬間の風力や風向きは、水深は、果ては気圧や月の位置はどうか。どれほど影響するのか‥‥ やはり、暴騰、暴落のタイミングを予測することには限界があるのでは・・

カオスに立ち向かう!

ランダムな中の規則性

解析手法にはさまざまなアプローチがあります。 本システムは、無条件に過去の分足データから時間スケールの変数と、マーケットデータから抜き取った変数とを無理やりな条件どうしを競わせ、いくつかの答えが勝ち残ったら、相関順位により任意に確率を割り当てて期待値を求め、その中からまたランダムに突き合わせ、競わせる。予測となるべきシナリオはいったん無視しながら、ランダムに付加をかけたり、ある条件で切り分けしたり、やり方はいろいろとありますが、大量のデータを網羅し、一度に数億件のアルゴリズムを試し、実際さまざまな条件を試してみて、一番うまくいったものをとりいれるというやり方で最適解を見つけ出します。つまり、市場データから抽出した特徴量を元に、多変量条件セットをランダム生成し、相互競合選抜(tournament selection)によって統計的優位性を評価。スコアリングされた条件群に確率的重みを付与し、期待値を計算するというプロセスです。当然、炙(あぶ)り出されたものを市場のモデルに照らして、実測値との間隔をどんどん縮める作業も繰り返しながら検証する必要があり、漸進的に最適化を進めます。これらのルーティーンはプログラムで自動化されます。

また、モデルの有効性を検証するだけでなく、「仮定したモデルが機能しない」ことを証明する視点も取り入れ、選択された分布関数やパラメータの適合性を厳格に検証するプロセスも実装しています。

このような手法は、1990年代の金融モデリングの黎明期に登場した**「ブラックボックスモデリング」**の発展系といえます。
※補足:「ブラックボックスモデリング」という言葉自体は今日やや陳腐化している面もありますが、本稿ではあえてその原義――因果構造を明示せずとも、予測の有効性を確率的・統計的に担保する手法――を尊重し、使用しています。

ブラックボックスモデリングの系譜 ― プレディクションカンパニーの思想

「ブラックボックスモデリング」という発想は、1990年代にアメリカでカオス理論を研究していた物理学者が設立した「プレディクションカンパニー」に遡ります。

相場の動きには明確な因果関係があるはずですが、それを直接説明するのではなく「こう動く傾向がある」という事実のみを利用するアプローチです。

この考え方は、市場を現象として捉え、分析者が意味を付与する前に、その構造を忠実に描写しようとする試みにも通じています。市場の動きに本質的な意味があるかどうかを問うのではなく、そこに見えるリズムやパターンがどのように形成されるのかを探ることが目的です。

私はかつて、スイス銀行(当時のSwiss Bank Corporation、現在のスイスユニオン銀行)で働いていました。

スイス銀行には、アメリカのオコナー&アソシエイツのメンバーが在籍していました。オコナー社といえば、1987年のブラックマンデーの暴落時に「修正版ブラック・ショールズ・モデル」を駆使して見事に乗り切った、オプション取引のエキスパート集団です。当時の私は入社2年目で、まだ右も左もよくわかっていない若手社員でしたが、今思えば、なかなか面白い環境にいたのだなと感じます。スイス銀行が彼らを買収する前、すでに彼らは前述しているプレディクションカンパニーを傘下に収め、共同で高度な金融モデリングを取り入れていました。その手法の精度は驚くべきもので、業務開始から15年間、リスク調整後のリターンがS&P500を100%以上も上回っていたと言われています。

そんな歴史的な成果を上げていたオコナー社のクオンツたちが、すぐそばのトレーディングルームやマシンルームにいたわけですが、当時の私はそんな彼らの凄さをほとんど理解していませんでした。ただの気さくな同僚たち、というくらいの感覚で、ときどきマシンルームに顔を出しては、おしゃべりをしていたものです。

マシンルームには、オコナー社から来たMIT(マサチューセッツ工科大学)出身のプログラマーが2人いて、彼らの開発環境はなんとスティーブ・ジョブズがAppleを退社後に立ち上げたNeXTSTEPでした。今でこそNeXTはAppleの歴史の一部として語られますが、当時は「革新的なオブジェクト指向OS」として一部のマニアの間で話題になっていました。コンピューターオタクだった私は、その存在を知るや否や興味を持ち、実際に仕事ではほとんど使わないにもかかわらず、自宅に導入して自宅のPCとつなげて遊んでいました。今考えると、完全に自己満足の世界ですね。

そんな私が一度、大胆なことをしてしまいました。当時の私はまだ怖いもの知らずで、「オコナー社」のメンバー4人全員とスイス銀行のメンバーを合わせて男女10人ほどで、月曜祝日を利用した2泊3日の蔵王スキーツアーに誘ってしまったのです。しかも、泊まるのは一泊数千円の超格安旅館。もちろん男女それぞれ一部屋づつの雑魚寝(ざこね)スタイルです。彼らはアメリカの大手投資銀行出身のエリートたちだったわけですが、私はそんなことなど気にも留めず、「みんなで楽しもう!」というノリで企画してしまいました。

結果として、本人たちは意外にも楽しんでくれたようですが、ひとつ問題がありました。それは、部屋にあるテレビがコインを入れないと映らないシステムだったこと。彼らはそれを見て「これはどういう仕組みなんだ?」と真剣に考え込んでいました。私は「まあ、日本の昔ながらの旅館ってこういうものだから」と説明しましたが、彼らはなかなか納得していない様子でした(お金がかかることに納得してなかったのか・・)。スイス銀行のトレーディングルームでは最先端のオプション取引モデルを駆使していた彼らが、こんなシンプルな仕組みに困惑する様子は、なんとも微笑ましい光景でした。

今振り返ると、私は本当に自由にやらせてもらっていたなと思います。そして、そんな環境で働けたことが、後々の自分のキャリアにも大きく影響しているのだろうと感じます。あの頃の私は、金融業界の歴史に名を刻むようなクオンツたちと日常的に接していたわけですが、その凄さを理解するのはずっと後になってからのことでした。

『ブラックボックスモデリング』とは

適切なモデリングとは何か?

ゲノム解析において、全ゲノムショットガン法というものがあります。ゲノム全体を最初から物理的手段で断片化し、大量の断片を片端からシーケンサで読んだ後、それぞれの配列を断片ごとに照合して、同じ配列をもつものを探し出して重ね合わせてゆく作業です。たった4つの反復配列なので、膨大な量の塩基配列情報が整列することになりますが、相当のコンピューター処理能力と、これらに何らかのアルゴリズムを加えることで、決定的に有意な情報を得ることができます。

ショットガンという名前がついているのは、データをボロボロに細かく砕くというとですが、「アルゴリズムに立ち向かう!」では、日経平均先物データをまさに分刻み、秒刻みで細かく刻み、片っ端から解析していくプロセスをとっています。問題は、そこから意味のあるデータを取り出すためのアルゴリズムですが、日経平均先物の分刻み・秒刻みデータを無数の断片として捉え、意味付けより先に構造的な重なりを探索します。そこでは、ノイズ除去や異常値フィルタリング、基準時刻の設定、そして時間スケールの動的調整など、数理モデルに先立つ前処理と抽象化の設計が極めて重要です。これは、単なる数式処理ではなく、市場の内在構造に「耳を傾ける」ような作業です。

市場の動きに何らかの「本質的意味」があるかどうかをあらかじめ想定するのではなく、意味づけ以前の次元において市場が示すリズムやパターンに耳を傾けること。それがこの解析の出発点です。市場を志向的対象として捉えるのではなく、むしろ市場それ自体が生起する構造――そこに潜在する時間性、再帰性、自己相関的配置――をさぐることにこそ意義があると考えています。

この視点に立てば、テクニカル分析のような視覚的・経験的な「意味づけの体系」はおおむね無視する存在であり、代わりに市場それ自体が発する構造的メッセージを、分析者の意図から離れて追跡する態度が要求されます。関心は「なぜそう動いたのか」という説明的理解ではなく、「どのようにそう動いているのか」という現象そのものの編成、もしくは構造理解にあります。

どのような解析モデルを使うか」はAIが決める

今日、AIテクノロジーの進化に伴い、前述の「プレディクションカンパニー」や「オコナー社」の複雑系アナリストが推し進めていた手法に新たなモデリングを付け加える必要があります。私たちの解析では、まずすべての前提を疑うことからスタートします。どれほど有力に見えるモデルも、それが機能していると仮定するだけでは不十分であり、実際に機能していない可能性を一つひとつ丁寧に検証していく必要があります。そのために、標本データもできる限り多様なパターンを用意し、変動条件や極端な市場状況も含めて(AI)を使ってシミュレーションを行い、学習機能予測の正確性を確保します。とはいえ、結果として導かれる予測モデルは、決して「万能な答え」を示すものではなく、現時点での構造的整合性に照らして妥当とされる選択肢にすぎません。
それでも、このような検証を経て出力されたブラックボックス的な予測データは、最も通るであろう最新の株価の道筋であり、通常であれば大きな逸脱を伴わず、概ね構造通りの範囲に収束するという性質を持ちます。

2023年6月23日分析レポート

No.14 PM14:45 End Analysis (Short Terms)

2023年5月18日Free! No.15 Morning Pack (short & long)

Free! No.15 AM8:45 Morning Pack (Opening Analysis)

2023年5月17日お知らせ

No.7 AM14:15 End Analysis (Long Terms)